船はどうして波で傾いても元に戻るのでしょうか

 船はどうして波で傾いても元に戻るのでしょうか。船の航行中は波があると横揺れしたり縦
揺れしたりして航走しますが、よほどのことがないかぎり転覆事故などは起きません。これは
何故なのでしょうか。

 船は波などの外力が作用して左右どちらかに傾いても、船の重さの中心である重心位置と船
を浮かべる力の中心である浮心位置の位置関係で、傾いている船をもとの状態に戻そうとする
力が働きます。この力のことを「復原力」(Stability) と言います。

 復原力は重心と浮心の位置関係で強く働く場合と、弱い場合があり、これが弱い場合は、大
きな横波などを受けた時は転覆する恐れもあり、船を運航する人はこの「復原力」に最大の注
意を払っています。

 [ 図 1]は船の横断面図で、船が直立(Up right)して浮いている図です。直立状態では船
の重心(G)と、浮心(B)は共に船の中心線(垂線)上にあります。

 [図 2]は船が外力を受けて傾斜(Heel)した図です。船が傾くと重心の位置は変化しませ
んが、浮心位置が移動します。浮心は常に水線面(WL)下の船体容積の中心に有る分けですか
ら、[ 図 1]と[図 2]では水線面下の形状が変化しています。[図 2]で水線面下の船体
容積の中心が(B)点とすれば、(G)点の作用線(垂線)と (B)点の作用線(垂線)とは離れて
しまい、浮力は上向きに、重力は下向きに作用しますので、この図では、船はもとの中立の状
態に戻ります。これを安定平衡(Stable equilibrium)と言います。

 [図 3]は船の傾斜状態には変化が有りませんので (B)点の位置は変わりません。しかし、
重心の位置が変わっています。この状態の船はどんどん傾斜が増大して行き、やがては転覆す
るか、または、大きく傾斜した状態で静止するかして、もとの中立状態には戻りません。
(傾斜が増大して行くにつれて浮心位置も変化しますので、もしも重心と浮心位置の作用線が
一致すればその傾斜の状態で静止する)。
これを不安定平衡(Un-sable equilibrium)と言います。

 [図 4]は[図 2]を拡大したものとご理解ください。[図 4]の B点が何故 B'点に移動
するかと言えば、船が傾斜したために三角形 b1 の面積 (容積)が三角形 b2に移動したためで
す。 B 点と B' 点の移動距離は、b1点と b2点の距離 x b1 の重量(w)÷ 船の重量(W) で、移
動方向は b1 点と b2 点の方向に平行移動します。

 B' 点の作用線と船の中心線の交点 M 点をメタセンター( Metacenter )と言います。従って
船の重心位置 G 点 が M 点の下方にある船は「安定平衡」な船であり、上方にある船は「 不安
定平衡」な船と言うことになります。

 復原力の大きさは G 点 と M 点の距離で表され、距離が大きい程、復原力は大きく、距離が
小さい程、復原力は小さいことが分かります。従って、船の重心位置が下方ほど「復原力は強
く」また、上方ほど「復原力は弱い」こととなります。

 復原力は船幅(B)が広い船ほど大きく、同一船で横揺れ周期(T)が短いほど大きいこと
が分かります。従って、大きな復原力が必要な船、例えば、タグ・ボート(曳船)などは船の
長さに比べて幅が広く作られています。

 しかし、復原力が強すぎると横揺れ周期が短くなり、少しの波でもグラグラと横揺れして乗
り心地が非常に悪くなります。この様に復原力が強すぎる船を軽頭船(Stiff vessel) または、
ボトム・ヘビー( Bottom heavy ) と言います。
 ボトム・ヘビーの状態で航行すると、乗り心地が悪いばかりではなく、積荷が移動したり船
内設備を破損する恐れがあります。

 復原力が弱すぎると横揺れ周期が長くなり、片舷に傾き始めるとなかなか止まらず、このま
ま転覆するのではないかと不安になることがあります。事実、この様な状態では大きな横波を
受けると転覆するかも知れません。また、横風を受けても大きく傾きます。
 この様な復原力が弱すぎる船を重頭船(Tender vessel) または、トップ・ヘビー( Top he
avy)と言います。

 復原力はどの程度が良いのでしょうか。船が港を出港して目的地の港に入港するまで何日も
掛かることがあります。その間に燃料や清水、その他を消費しますが燃料タンクや清水タンク
は船の重心より下方にあることが多く、この様な場合は消費が増える程、重心が上昇し、従っ
てGMが減少して復原力は弱くなります。また、冬期寒冷地を航行すると甲板や甲板貨物にし
ぶきが掛かり、これが結氷しても重心が上昇します。
 この様に、航行海域の気象や海象、航行距離や自船の性能を考慮して、到着時に十分な復原
力が確保されるよう、出港時に適正なGMで出港します。

 一般の船は、空船状態のGMは大きくなるように設計されていますが、満載状態では船幅の
4パーセント(0.04・B)位が適当と言われています。

 例えば、総トン数 10.000トン 船幅 20m の船の場合で計算すると
         GM = 0.04・20 m = 0.8 m( 80 cm )
         T = 0.8B/√GM = 0.8・20/√0.8 ≒ 18 秒
GM は最小でも30cmを限界とし、これ以上を確保すべきと思われます。

 尚、20トン未満の小型船(モーターボート等)では船幅の8割を横揺れ周期の秒数とすれ
ば、ほぼ安全範囲と言われています。
( 船幅の8割を横揺れ周期とすれば GM =1m となります。)