電波航法
電波計器によって船位を測定する方法を電波航法と言います。現在、代表的な電波計器と言えば
「レーダー」や「GPS」ですが、その他にも「ロラン」や「無線方向探知器」等があります。
ここでは「レーダー」による船位測定法を説明します。

『 レーダー( Rader ) 』
レーダーの名前は、「 Radio detection and ranging 」の略で、距離が正確に測定できますの
でレーダー画面上に映る陸上目標までの距離と方位を測定すれば簡単に船位が分かります。ま
た、電波の反射を受信して映像化している訳ですから、昼夜に関係なく、また雨天や霧で陸岸
が見えない場合でも、レーダー画面上にはそれらが映りますので、非常に便利な航海計器です

 上の写真がレーダー画像です。この画像を見ながら説明します。
1.左上角に表示されているのは映像距離範囲で現在は1.5海里範囲を映しています。レンジ
  切換えによって、このレーダーでは、0.125海里、0.25海里、0.5海里、0.75海里、
  1.5海里、3海里、6海里、12海里、24海里、48海里、96海里の中から選択する事が出
  来ます。
2.右上は本船の位置を緯度、軽度で表示しています。これはGPS情報の位置です。
3.画像中心が自船の位置ですから、レーダーは周囲の状況を映す事になります。この映し方
  をPPI方式と言います。
4.船首輝線は現在のコンパス針路で、264°を向いています。
5.EBLはエレクトリック・ベアリング・ラインの略で、目標の方位を測る時に使います。
  現在、小島の左先端の方位は300.4°です。これは右下にも表示されています。
6.点線の円はVRMでバリエーブル・レンジ・マーカーの略で目標までの距離を測る時に使
  います。小島までの距離は右下に表示されており、1.00 海里です。
7.画像中心(本船位置)からカーソルまでの方位と距離が、右上の本船位置の上に表示され
  ています。従って、目標にカーソルを合わせれば目標までの方位と距離を測る事もできま
  す。EBLやVRM、カーソルなどは画面上自由に動かすことができます。

 上の海図の写真はレーダー・スクリーンの映像範囲を示したものです。船位測定のために船
首右前方の小島の左先端にEBLを合わせ、方位300.4°に測定。同小島の海岸線にVRMを合わ
せ、距離 1.00 海里に測定しました。この方位を海図に書込み、コンパスを用いて、小島先端
を中心にして方位線上に一部円を描けば、その方位線と円の交点が船位です。これは目標から
の「方位と距離」による船位測定法です。

 上図はレーダー画面上で 、VRM により A点、B点、C点の、それぞれの距離を測り、海図上
で、それ等の点を中心にして、コンパスで円を描き、その交点を船位とした画です。
 この様に2点または3点の距離をレーダーで測れば、コンパスだけで海図に書込めますので
非常に簡単に船位測定ができます。

 レーダーは船位測定だけではなく、見張りの補助計器として、雨や雪、霧などで視界が制限
されている時には、その威力を最大に発揮します。

 上のレーダー画面は「接近中の船」があることを知らせています。大型船のレーダーには他
船との「衝突監視装置( ARPA ) 」が組込まれており、他船が設定距離まで接近して来ると、
赤いベクトル線が表示され、衝突の危険が解除されるまで、警報が鳴り続けます。
 画面右横に接近船舶の情報が表示されています。現在の ARPA設定はベクトルの長さが6分
(即ち、両船が現在の進路と速力を維持すれば6分後には他船の映像はベクトルの先端まで接
近する)、他船の最接近距離が1海里以内になる場合に、10分前からベクトルを表示する設
定になっています。接近船の情報は TARGET ID No.4 として表示されており、その情報は、
1. 他船方位 238.4° 2. 距離 1.28 nm 3. 進路 66.4° 4. 速力 10.5 kts
5. 最接近距離(CPA) 0.18 nm 6. 最接近までの時間(TCPA) 7.3 分
7. 本船の船首を横断する距離 0.45 nm 8. 横断するまでの時間 4.9 分
以上8項目の情報が表示されています。

レーダーを使用する場合の注意として、
1、海岸線はほぼ海図の様に映りますが、海岸線より奥の山などの形状は判断出来ません。ま
  た山の稜線の裏側は映っていません。
2、映像は少し左右に拡大して映ります。従って左右に突出た島や岬の先端の方位を測る場合
  は2°程内側が実際の先端ですから、2°程内側を測らなければなりません。また同様の
  理由で船も左右と奥側に拡大して映りますので映像からは大きさや船の向きは正確には判
  断出来ません。
3、小型船など2隻の船がある程度接近すると1隻の船の様に映る事があります。
4、レーダーには波も映りますので波消しのツマミがあります。波が大きく成ると中心付近に
  白く波が映りますが、波消しを掛け過ぎると波の中に小型船が居た場合、波と一緒に小型
  船も消えますので注意が必要です。
5、近距離映像の場合、感度を上げ過ぎると電波の乱反射により色々の偽像が現れますので、
  偽像が現れない程々の感度に調整して使用する事が必要です。
6、最近製造された出力5Kw 未満の小型船用レーダーは無資格者でも使用(レーダー操作)
  できます。

 
『 GPS受信器( Global positioning system ) 』
 GPS は地球の表面から高さ約2万Km の周回衛星( 地球を 約11時間58分で一周する )
を、経度差60度ごとの6つの軌道に4個ずつ打ち上げた計24個の衛星によって、地球上の
あらゆる地点で、24時間いつでも、どの様な天候でも位置を知る事が出来るシステムです。

 現在、GPSは米国で運営されており、以前は、民間用に開放された情報には精度が少し落と
されており、この情報で測定した位置には 約100m 程の誤差が生じました。 大洋航行中の
船舶には、この程度の誤差は問題にならないのですが、狭水道や港内を航行する船舶にとって
は、もっと精度が高い方が安全です。 そこで、海上保安庁は誤差補正電波を送信するDGPS局
を日本全国に27局設置しました。 日本沿岸を航行する船舶はDGPS 受信機により、GPS信号
と、この補正信号を受信する事で、精度の高い船位が得られる様に成りました。DGPS 局から
200Km 以内であれば船位の誤差は10m 以内と言われています。
しかし、2000年頃から米国では、民間用の信号も精度を上げて送信していると聞きました。

追記:当サイトを見て下さった方から下記の様にご指摘がありましたので書き加えます。
 2000年 5月 2日 13時(JST)からは、SAが解除されて、GPSの精度は単独測位で 10m程度
に、海上保安庁の GPS位置補正情報を利用した場合は、1m程度の精度になっています。


 GPS受信器には、据置き型やプロッター付き、音響測深器兼用型やハンディータイプなど、
さまざまなタイプがありますが、この写真は据置き型です。

 画面中央の大きな数字が、現在位置で、緯度、経度で表示されています。その他、画面下に
現在の進路(針路ではない)、速力。航走時間、距離。画面上に、航海ルート番号、次回変針
点番号、その変針点までの方向(針路)、距離など、その他の情報も表示されています。
 船では、この表示された位置を海図に記入し、海図上での位置を確かめながら航海します。

   GPSは全世界的測位システムですので、使用する海図も世界的な基準のものでなければなり
ません。これまで、海上保安庁水路部による海図は、 日本測地系(Tokyo Datum)で刊行さ
れておりましたが、GPSが普及した現在では、日本近海の海図は世界測地系(WGS84)に改刊
され、日本測地系の海図は廃刊になりました。

 日本測地系と世界測地系では日本近海に於いて、位置に、約400m程のずれがあると言わ
れています。従って、使用している海図の測地系に受信器の表示を合わせて使用しなければな
りません。