係船設備
 船は沖合に錨泊したり桟橋に係留したりするとき、錨や揚錨機、ウインチなどを使用しますが、これ
らを係船設備と言います。ここでは一般的な係船設備を写真で説明します。

 左の写真は錨( Anchor)を投下したり、巻上げたりする「揚錨機( windlass)」です。錨は船首両
舷に2個の主錨が装備されていますが、その他に、予備錨1個を装備しなければなりません。ウインド
ラスも2台装備されています。この船の主錨の重さは、6,225KGです。
 右の写真は「錨鎖( Anchor chain)」が「錨鎖管( hawse pipe)」を通って船外に出ている写真で
す。この船は片舷 300メートルの錨鎖を装備しておりますが、錨鎖は、一本の長さが 25メートルです
ので、12本の錨鎖を連結しています。錨鎖は 25メートルを単位として数えますので、 1節、2節と
言うように数えます。また、錨鎖を連結するものをシャックル (shackle)と言いますが、1節、2節
を1シャックル、2シャックルと言う呼び方もします。

 左の写真は「錨鎖管(ホース・パイプ)」に収納されたアンカーです。写真右下の白いマークは船首
が「 球状船首 (bulbous bow)」であることを示すマークです。 貨物を満載すると球状部分は水面下に
没水し見えなくなり、小型船が船首に接近して航行すると危険なため、このマークが描かれています。
 右の写真はホース・パイプから「スイング・アウト( Swing out )」された主錨です。通常の投錨で
は、この状態にしてからウインドラスのブレーキを緩めて投錨します。
この錨は「High Holding Stockless Anchor」です。

 左の写真はウインドラスや他の船首係船設備があるデッキ下部の「船首倉庫(Boatswain Store)」
内部の船首構造を映したものです。この倉庫内には「錨鎖庫(Chain Locker)」もあります。
 右の写真は、船首倉庫に備えられたウインドラスを動かすための「油圧ポンプ」です。2台装備され
ており、1台は予備のポンプですが、通常は交互に使用しているようです。また船尾には、船尾の係船
ウインチを動かすため同様の油圧ポンプが2台装備されています。

 左のイメージ画は「単錨泊」中の船が強風中に振れ回る
様子を描いたものです。

 単錨泊(片舷一個の錨で錨泊すること)は一般的な錨泊
方法ですが、風が強くなると次第に振回りが大きくなり、
船は画のように、横に8の字を描くように動き回ります。

 錨鎖に掛かる張力は、A点とB点で最大となり、もしも
風圧に対して錨鎖の「把駐力」(錨が海底に係止する力)
が弱い場合には、 「走錨( Dredging )」(錨が海底を滑
りだす事)し始め、近くの浅瀬に乗揚げたり、海岸に座礁
する危険があります。

 船では走錨を防止するために錨鎖を十分長く使用して錨
泊します。使用する錨鎖の長さは、経験的に錨泊する海の
深さで決めるのが一般的です。水深を(D)とすれば、
◎ 通常の場合:5D〜6D  (風速10m 位まで。)
◎ 強風の場合;3D+90m (風速20m 位まで。)
◎ 荒天の場合;4D+145m などと言われています。

 上のイメージ画は「単錨泊」中の船が強風中に前後に移動を繰返しているものです。錨の把駐力は「錨
の把駐力」+「錨鎖の把駐力」の総和となりますので、A点とB点の距離が長い程、把駐力が大きくなり
ます。因みに、把駐力が消失する錨鎖の長さは一般的に水深の1.5倍の長さと言われています。 この長さ
をショート・ステイ(short stay)と言い、「停泊中と航海中」の境界の長さです。
 錨泊の方法には単錨泊以外にも「双錨泊」や「二錨泊」などの錨泊方法があります。

 上左の写真はウインドラスに連結された「ホ−サー・リール(Hawser reel)」です。これは係船索を
巻込むためのものです。また、リールの先端にホ−サー巻取り用のドラムが付いていますが、これを「ワ
ーピング・エンド(Warpping end)」と言い、ホ−サーを手で巻込む時に使います。

 右側の写真で、ローラーが3個付いたものが見えますが、これを「フェアーリーダー (Fare leader)
と言い、ローラーが付いたものですので、ローラーフェアーリーダーと呼びます。係船索を岸壁に送り出
す時に、ここを通して送り出しますが、それにより係船索の磨耗が軽減されます。

 左側の写真で丸い穴が見えますが、これを「ムーアリング・ホール(Mooring hole)」と言い、係船索
を、このホールを通して 岸壁に送り出します。ここが船首最先端です。

 右側の写真で、 2本の柱状になっているものを「ボラード (Bollard)」と言い、係船索を2本の柱に
8の字を描く様に4〜5回巻いて係止します。

 上2枚の写真は船尾の係船設備です。左側は係船索を巻込むための「ワーピング・ウインチ」で、2台
装備されています。右側の写真のものは、「 ETA(emergency towing appliance)」と言い、タンカー
の「非常曳航装置」です。タンカーが桟橋に係留中、自船や陸上施設に火災などの緊急事態が発生し、自
力で離岸、沖出しができない場合に備えて、曳航用のワイヤーが備えられています。
 船が岸壁や桟橋に係留する時のホ−サーの取り方は、一般的に上の画のようになります。
因みに、 「ホ−サー( Hawser )」とは、太さ(径)が40ミリ以上の繊維索を言い、10ミリ以
下のものを「細索(Small stuff)」、この間のものを一般に「ロープ(Rope)」と呼びます。
 これら基準のロープの長さは200メートルで、これを単位として、1丸(Coil)等と呼びます。