荷役設備
 船の荷役設備は貨物を積荷したり揚荷したりする設備で、一般貨物船とタンカーのように貨物の種類
によって異なります。ここでは主にタンカーの荷役設備を写真で説明します。

[ タンカーの荷役設備 ]
 この船は「載荷重量トン数 47,000トン」のタンカーですが、左の写真ではメイン・デッキ上の「パ
イプ・ライン」の様子が判ります。このパイプ・ライン群には貨物油荷役用のパイプ以外にイナートガ
ス・パイプや泡消火器用パイプ、洗浄用高圧海水パイプ、電気配線用パイプなどが通っています。
 右の写真は、陸上との貨物油荷役用連結パイプを連結する時などに使用する「クレーン」です。

 左の写真は「貨物油タンク・ハッチ」と「油面検出器と警報器」です。タンク内の検査や掃除などで
タンク内への出入りには、このハッチから出入りします。 各タンクに1個設置されています。
 油面検出器( Level Master Detect Element)はフロート・タイプのもので、タンク底部から貨物油
面までの深さを検出し、荷役制御室のタンク・ゲージで表示されます。
 油面監視器( Level Watch Detector Element)は貨物油量を監視し、タンク容積の97%で荷役制御
室の警報装置が作動するようになっています。
 右の写真は「アレージ・ホール(Ullage hole)」と言います。アレージとは、タンク上面から貨物油
面(液面)までの距離の事で、タンカーでは油量を計測する時はアレージ・ホールから巻尺に似たアレ
ージ・テープを入れて計測します。これはタンク底部から液面までの深さを測るより便利なためです。

 上2枚の写真は「荷役制御室( COC) 」を撮影したものです。貨物油の積込みや、揚荷のためのバル
ブ操作など、荷役に関する全ての制御は、ここで行います。正面のメーター類は各タンクの油量計や、
ポンプの作動状態を示すものです。

 上の写真は「火災制御図」ですが、貨物油タンクの様子も分かりますので掲載しました。写真の上が
船体側面図で、貨物油タンクは、第一タンクから第八タンクまで隔壁で8分割されています。写真の下
は、これを上から見た縦断面図です。三番タンクから八番タンクは右舷と左舷に分割されたタンクです
が、一番タンクと二番タンクは左右に分割されていないタンクです。従って、この船の貨物油タンクは
合計14タンクに分割されている事が分かります。
 前後に、数多く隔壁で区画すると、どこかのタンクに損傷(船体損傷)を受けたとしても、油の流出
を少なくする事ができます。また、左右に分割することによって、復元力の低下を防止できます。

 2枚の写真は、貨物油を荷役するための「メイン・ポンプ」で、ポンプ室に3台装備されています。
タンカーがペルシャ湾などで原油を積荷し輸送する場合、外気温度が変化すれば原油の温度も変化しま
す。また、油の種類によっては揚荷し易い様に油の温度を上昇(ヒ−ティング)させる事があります。
温度が上昇すると油が膨張しタンクから溢れだす事があります。これを防ぐため、積載量はタンク容積
の96〜98パーセント位にしているようです。

 左の写真は、上の「メイン・ポンプ」を回転させるための「蒸気タービン」です。ポンプの真上の機
関室にあり、シャフトで直接回転させるようになっています。
 右の写真は、「ストリッパー・ポンプ」と言い、タンクの底に少量残っている貨物油を完全に吸上げ
るためのポンプで、ポンプ室に2台装備されています。

[ 一般貨物船の荷役設備 ]
 上、2枚の写真は、一般的な貨物船の写真です。最近の貨物船は殆どの船が「クレーン」を装備して
おり、陸上の荷役施設を利用できない港では、このクレーンを使用して荷役作業を行います。クレーン
が普及していない時代には、長い間「デリック・ブーム」と言う装置で荷役を行いました。
 左の写真の貨物船は「船倉(Cargo hold)」(貨物を積載するところ)が5個に区画されています。
また、右の写真は荷役中なので艙口蓋(Hatch cover)が開放されています。

 上左側の写真は撒(バラ)積貨物船の「船艙(Cargo Hold)」です。サイド・デッキ下の形状が斜め
になっている様子が解りますが、これは穀類を積載した場合に「荷崩れ」を防止するためのものです。
 また、艙低に水が溜まっているのが解りますが、空船航海の時は吃水を深くするためにバラスト・タ
ンクに海水を漲水しますが、荒天の際には全てに漲水しても吃水が浅く、プロペラーの空転や波による
船首船底のパンチィングなどで航行の継続ができない場合にはバラストとして船艙一杯に海水を漲水し
ます。しかし、船艙に水を漲ると復元性が極端に低下するため、水を漲るのは一船艙に限られます。こ
の船では船体中央付近にある第3船艙がバラスト・タンクに使用できる船艙になっています。
 右側の写真は「艙口蓋(Steel Hatch Cover)」が開けられた写真です。一般の船では二つ折の艙口
蓋を前後に開けるようになっています。

 ハッチ・カバーの開閉は油圧で行いますが、上左側の写真はその「ハッチ開閉レバー」です。右側の
写真は「ハッチ・カバー・ヒンジ」で中央奥に油圧シリンダーが見られます。

デリックブーム タンカーの横断面図
貨物船の横断面図
 左のイメージ画は、「デリック・ブーム (Derrick boom) で積荷役中のものです。 クレーンが普及す
る以前は、画のような1本デリックか、または、2本デリックで積み揚げ荷役を行っていました。

 右側は「タンカーの横断面図」と「一般バラ積貨物船の横断面図」です。 タンカーの油流出事故を防
止するため、国際海事機関 ( IMO ) の条約により、 1996年 7月以降新しく建造される 5000重量トン
以上のタンカーは貨物油タンクが二重殻 (ダブル・ハル)構造方式である事が義務付けられています。
 従って、 タンクの外側は吃水調整のため海水を積込むための「バラスト・タンク」になっています。

 一般の貨物船は、二重船底構造で二重底部分は「バラスト・タンク」で、一部「燃料タンク」に使わ
れている箇所もあります。撒(バラ)積貨物船は、穀類(小麦や大豆、トウモロコシ)などをバラ積み
する事もあります。これらの穀類は、船体がある角度まで傾斜すると「荷崩れ」を起こす危険があり、
「穀類その他の特殊貨物船舶運送規則」により、荷崩れによる転覆事故を防止する為の積付規則が決め
られています。甲板下の三角形の「ショルダー・タンク」は、穀類を積載した場合に、艙内に満載され
空積を作らないように傾斜を付け、その部分を「バラスト・タンク」にしています。