エンジン・テレグラフ
 下の写真は、操舵室内に装備される主機関を制御するためのエンジン・テレグラフです。
左側のテレグラフは古いタイプのものでチェーンやロッドでエンジンルームのテレグラフに連
結されて指針を動かすもので昭和30年代まで使われて居りました。その後は、右上の電気式
のテレグラフが一般的になりました。右下はテレグラフの表示板です。

テレグラフ
 エンジン・テレグラフは操舵室内の右舷側に装備されるのが一般的なようです。私が現役時
代に乗っていた船(外国航路の一般的な貨物船)は全て右舷側に装備されて居り、また緊急用
のテレグラフ等は有りませんでしたが、非常停止ボタンはテレグラフとは別にあります。

 なお、主機回転計と舵角指示器は、操舵室内の他に操舵室外の左右両側に装備されており、
操舵室内だけでなく、ブリッチ・サイド(ウイング)に出ていてもエンジンと舵の状態が見ら
れるようになっています。

 しかし、最近では船も多様化、近代化しており、エンジン・テレグラフも一基だけではなく
複数が装備されている船があるかも知れません。

エンジン・テレグラフ表示板の説明
FINISHED WITH ENGINE(機関解除)機関の使用を解除する
STOP(機関停止)機関出力:零
STAND BY(機関準備)機関を使用できるように準備せよ
以下、AHEAD(前進)とASTERN(後進)は共通
DEAD SLOW(極微速)機関出力:連続使用可能な最小出力
SLOW(微 速)機関出力:全速の約 1/2 の出力
HALF(半 速)機関出力:全速の約 3/4 の出力
FULL(全 速)機関出力:連続最大出力の80〜90%の出力
(後進時の速力は前進速力の約 50〜60% 程度です)
 船が港の錨地に投錨し、または岸壁等に係留して、エンジンを使用しない状態に
なれば FINISHED WITH ENGINE として機関部の STAND BY 部署を解除します。
 また、港を出港する場合等エンジンを使用できるように機関部を STAND BY
部署に付かせるときは STAND BY として機関室からの応答を待ちます。

 現在の船の主機関には、その殆どにディーゼル・エンジンが使われておりますが、大型船で
は、大洋航行中などエンジンの回転数を一定にして航行できる状態のときには、その燃料には
廉価な「C重油」が使用されます。
 しかし、港に入港する場合や船舶が輻輳する湾内や内海を航行する場合には、C重油よりも
高価な「A重油」を使用します。
 何故かといえば、港内や湾内ではエンジンを半速や微速、あるいは極微速や停止など、いろ
いろとエンジンを使用する事となり、もしもC重油のままで停止すると燃料パイプ内のC重油
の温度が低下して油の粘度が高くなり、エンジンを始動できなくなる危険があるからです。
 従って、このような危険を避けるため、港内や湾内では低温でも粘度の低いA重油が使用さ
れます。しかし、A重油ではC重油ほどエンジンの回転は上がりません。
 なお、C重油からA重油への切換え、A重油からC重油への切換えには、それぞれの船によ
っても異なりますが、概ね1時間程かかります。

 上の写真は「エンジン・コントロール・スタンド」上のテレグラフの写真です。「F/ENG」
のボタンは「機関解除」のボタンで「S/B」は「機関準備」のボタンです。
なお「R/UP」のボタンは「RING UP ENGINE」と言い、機関室の「STAND BY 部署解除」のこ
とです。また、テレグラフ表示面の「NF」は「 Navigation Full」と言い「航海速力」のこと 
で、船が港内や湾内を出航して安全な海域に出るとテレグラフを「FU」から「NF」とし、そ
の上で「R/UP」ボタンを押して機関室の「STAND BY 部署」を「航海当直部署」に切換える
事を指令します。機関室では、この指令を受けて燃料を「A重油」から「C重油」に切換え、
主機回転数を通常の「航海速力」の回転数に整定して「航海当直部署」にして航行します。

港内速力(Harbour speed または Maneuvering speed)
 港内や湾内では、速力の変更が頻繁に行われること、航行の安全保持や航行水域によっては
制限速力などもあり、航海速力よりも小さい速力が操船の基準に使われ、この速力を「港内速
力」と呼んでいます。この速力は、それぞれの船によって多少異なるでしょうが、一般的には
概ね下記のような速力です。
FULL:11.5〜12.5 kt、HALF:8.5〜9.5 kt、SLOW:6.5〜7.0 kt、D.SLOW:4.5〜5.5 kt

航海速力(Navigation speed または Sea speed)
 船が航海する場合には、エンジンの出力に十分余裕をもたせた出力が使われます。即ち、連
続最大出力(安全に連続使用できる出力)の 80〜90% の出力で、これを「常用出力」とい 
い、従って、航海速力は公式運転時の 4/4 負荷に対する試運転速力の 80〜85% 程度です。

経済速力(Economic speed )
 海運界では「経済速力」という言葉がよく使われます。これは海運企業の採算上から割り出
される速力で、船ごとに、常に一定した速力というわけではありません。
 船の燃料消費率は速力の3乗に比例して増加するといわれておりますので、航海ごとの燃料
費と貨物運賃や入港予定日時などを考慮して船会社の営業サイドから指示を受けて決められる
速力です。従って、定期船よりも不定期貨物船でよく使われます。

BBS(掲示板)のご質問へのお答え
船長のサイドはSTBDである、というのは?
 ご質問の意味がよく理解できませんが、船長が操舵室(ブリッジ)内で操船指揮をとる場 
合、常に操舵室の右舷側に立って指揮するかという意味であれば、そのようなことはありませ
ん。甲板部職員のスタンバイ部署は「投揚錨」では、一般に一等航海士が船首の投揚錨作業の
責任者として船首部署につき、二等航海士と三等航海士はブリッジで船位測定やレーダー監 
視、テレグラフ操作などの船長の操船補佐をします。
 船長は、海図上の船位確認や自身でレーダーを覗き周囲の状況を確認する場合もありますが
それ以外では、ブリッジ中央前面に備えられた「操船指揮コンパス」付近で操船指揮をとるこ
とが多いようです。
 また、「離着岸部署」では、一等航海士が船首部署、二等航海士が船尾部署の責任者で、三
等航海士はブリッジで船長の補佐をします。船長は、パイロットが乗船して操船しているとき
でも船の総責任者としてパイロットの操船の状況を監視しています。
 従って、岸壁に接近すればブリッジ・ウイングに出て、岸壁までの距離やタグ・ボートの使
用状況、船首や船尾の係留索の張り具合などの監視をしておりますので、一カ所に立って操船
指揮をとることはありません。

 ご質問の「船長のサイドはSTBD」の事ですが「船長室」は確かに殆どの船がブリッジ直
下の右舷側にあります。
 この理由は「船で使う特殊な言葉」のページで 「ポート・スターボード」の項を見て頂けば
お解りと思いますが、左舷側を接岸して大勢の仲仕が騒々しく乗降りして、荷物の積降ろしを
するので、左舷を「積込み舷(Lade board)」と呼び、右舷と左舷の上下の席次として左舷を
下位とし、したがって右舷が上位席であり、最高責任者の船長室は右舷にあると言う説です。
 なお、初期の頃は上記の通り、左舷を「LADE-BOARD」と呼んで居たそうですが、これが
次第に「LARBOARD」と呼ばれるようになったとの事です。しかし、これでは操舵号令の際
に「STARBOARD」と聞違えることがあり危険なため、左舷を現在のように「PORT」と呼ぶ
ように統一したとのことです。
 従って、右舷を上位とする習慣から外国の港に入港する際には、その国の国旗をマストの右
側に掲揚し、自国の国旗は船尾のフラッグ・ポストに掲揚します。

 また別の理由として、海上衝突予防法の「横切り船の航法」で他船を右舷側に見る場合で衝
突のおそれがある場合には自船が他船の進路を避けなければならない「避航船」で、他船は現
在の針路と速力を保持しなければならない「保持船」と規定されています。
 従って、船は、左舷側の見張りよりも右舷側の見張りの方が重要だとの理由で、昔から船長
室は右舷側にあると言われています。真偽の程は分かりません。

 また、海上衝突予防法の「横切り船の航法」で他船を右舷側に見る船が「避航船」で、他船
を左舷側に見る船が「保持船」となる規定が、どのような理由で制定されたのでしょうか。
 どなたかご存知の方は教えて下さい。

 私の全くの想像ですが 「ポート・スターボード」の項に書いているように、昔のバイキング
船は右舷船尾に大きな「スティアー」が付いておりました。そのため、操舵する操船者には帆
や帆柱などの上部構造物のため左舷側は見え難く、その反対に右舷側から接近する船は十分遠
い距離から視認でき、その船を避航することは容易であったと思われます。
 このような理由で、他船を右舷側に見る船が「避航船」で、左舷側に見る船が「保持船」の
規定が出来たのではないでしょうか。どなたか理由をお知りの方は教えて下さい。
 ちなみに、2船間の衝突を防止するには、一方が「避航船」の場合は他方を「保持船」にす
る方が、両船に「避航」動作をとらせるよりも衝突の確率が低下すると言われています。